ジョイントベンチャーの行く末

誰の意見が通るのか?沈みゆくジョイントベンチャーの行く末

リリース段階では展望が語られ注目を集めますが成功に至るとは限らない「ジョイントベンチャー」について。

2016.09.26

この事例では誰が最も悪いと思いますか?

どの業界においてもビジネス環境の変化が激しく、事業立ち上げにもスピード感が求められます。そこで注目されているのが、複数企業がお互いの強みを持ち寄る事業提携やジョイントベンチャー。プレスリリース段階では華々しくその展望が語られ、注目を集める事も多いのですが、その全てが成功に至るとは限らないようです。

ジョイントベンチャーの落とし穴

ジョイントベンチャーでは、複数の企業が参加しているため、当然各社の思惑を調整し、winwinになるような経営判断がされていきます。もちろん資本比率などで、誰が最終的な意思決定権をもっているかといった取り決めは事前に行われますが、会社運営を円滑に行う上では、よほどのことが無い限り強引な意思決定は難しく、何よりも各社の意向に配慮した判断が積み重ねられるのが特徴です。

事業が安定した成熟企業であれば、社内の政治的な営みも必要になりますが、立ち上げ間もない企業において社内政治が発生してしまうことは、思わぬ落とし穴につながることもあります。そうならないよう、事業の方向性に迷った際には、皆が異論なく戻れる拠り所を設定しておくことが重要なのですが、それがないと悲しい結末を迎えることもあるようです。

ターゲット設定ができないサービス

とある設立初期のジョイントベンチャーの取締役会の一幕。
取締役Aの「このサービスのターゲットは〇〇と考えており・・」との発言に対して、突如反対意見を述べたのは社外役員B。

「ターゲット?そんなものは必要ない。私の会社ではターゲットなど設定したことがないですよ。サービスとは広くあまねく全ての人に使ってもらえることが良いに決まっている。わざわざ顧客を絞るということは、パイを減らすこと、売り上げを減らすことと同義ですよ」

マーケティング畑を歩んできたAはこの発言に驚き、その場でターゲットの設定意義やその効果を説き、説得を試みましたが、社外役員はそもそも聞く耳も無いといった状況。他の取締役もBの意見には違和感を覚えつつも、会社設立早々に場の空気を壊したくないとの配慮からか、とりあえずは静観を続けます。

Aは半分投げやりに、こう尋ねます。
「では、サービスはどういう観点で設計すれば良いのでしょう?」
「いまだと、手本はiPhoneだ。あれだよあれ、あのUIに多くの人が親しみをもっているのだから、あれに似せて作れば良い」

Bは自身ありげに自身の理論を展開。既に前段のターゲット不要の方針を許容してしまっている流れで、他の取締役から反対の意見がでることはなく、この方針が採用されることになってしまいます。

恐らく、各取締役の胸中には、「この時点ではもしうまくいかなくても、まだ始まったばかりの会社だ。あとで軌道修正はいかようにもできるはず」との思惑があったでしょう。しかし、Bの暴走を許したつけは大きく、結局この判断が会社を間違った方向へ導き、かつそこに縛られ続ける結果となってしまうのです。

まさにゴネ得!覆された軌道修正案

ターゲットを設定せずにつくられたこのサービスは、思うようにユーザが獲得できませんでした。独自仮説もなく、他サービスを表面的に真似ただけでしたから、改善策を考えようにも何から手を付けて良いか誰にもわかりません。悪いことに、それとは別に使い勝手の悪さなどが各所で露呈。その対応に追われることになります。現場は混乱し、するべきことだけは多い状態になっていきます。

そしてついに限界が訪れます。経営陣の誰もが、抜本的に見直さないとこのままでは上向かないことを核心せざるを得ないような局面を迎えたのです。

しかし、どう変えるかについてはまた賛否が分かれ、残念ながらこのタイミングでも顧客視点を掘り下げた改善案は否決。その上、今度は一度取締役会で上記の改善案が承認を得たにもかかわらず、取締役会後に一部の社外役員がジョイントベンチャーからの脱退をちらつかせたことで、それに役員連が配慮する形で現状肯定型の別案の採用とあってはならない展開に。

その後も、このサービスは顧客視点不在のまま、各企業間の思惑の調整に負われ続け、人知れず終了を迎える結果となりました。出航した舟が沈みかけているにもかかわらず、船員は誰も船を漕がず、どうするべきかでもめ続けそのまま沈んでいったように見える非常に残念な結果となったのです。

この会社の終盤、各社間の思惑を調整する役目で最後まで孤軍奮闘した役員Cからは、こんな一言が漏れました。

「こんなことなら、ジョイントベンチャーにせずに100%資本で会社をつくればよかったです。ユーザから支持を得られる良いサービスを構築していく中で、今回の出資各社に是々非々で協力してもらったほうが、何倍も色々なチャレンジが出来たような気がします・・・」

会社構想から終了まで数年間の奔走を振り返り、その無念な心中をおしはかることはできませんでした。

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