チャンスを逃した市場調査
いち早くクラウドサービスの可能性に気付いた企業の失敗談。千載一遇のチャンスを逃したのは、市場調査が裏目になった!?
2016.12.12
グリッドコンピューティングという言葉をご存じの方がいるかと思います。
クラウドサービスが現在のように広く知れ渡る少し前に、一般家庭にも普及したパソコンのCPUをネットワークで連携・これを活用して大規模演算処理を行うテクノロジーで、当時は多くの方がその可能性に胸を踊らせていました。
現在よりCPUの処理速度が遅く、その限界に皆がフラストレーションを抱えていた中で画期的な技術との期待が大きかったように思います。
そのような中、グリッドコンピューティングに関わる新たなビジネス可能性を探るべく市場調査が行われました。
大規模演算処理が必要と思われる気象や医療、金融等多分で事業性についてヒアリングなどの調査が実施されましたが、情報の機密性が担保されるのかなどの不安要素が先行し、どのヒアリングも総じてネガティブな反応でした。
このままでは、市場調査の意義がなくなる可能性もあったため、半ば苦し紛れにパソコンのCPUではなく、ハードディスクのシェアサービスであれば可能性があるかという仮説を打ち立て、そのビジネスの可能性についても追加でヒアリングを行いました。
今考えるとこれはまさにクラウドサービスそのものでしたが、当時はクラウドという言葉はなく、グリッドという言葉を活用して「データグリッド」と勝手に命名して、各所にヒアリングを実施していました。
当然、誰も聞いたことも考えたこともない概念だったので、最初は違和感もありましたが、当時から地震などの大規模災害に対する対応や、大企業において何千・何万人もいる社員のパソコン内のデータ管理をどのように行うかで苦心している企業からのニーズはあり、一定の事業性評価を得る事ができました。
しかし、グリッドコンピューティングという当初の仮説とは違うアイデアでもあったことから、市場調査で可能性を見いだしたものの「データグリッド」はその後の検討の素地にはあがりませんでした。
当然といえば当然なのですが、現在のクラウドサービスの普及を見ると、この企業は千載一遇のチャンスを逃してしまったといえるでしょう。市場調査を行ったにもかかわらず、市場性を正確に把握できなかったために、誤った判断を下すことになってしまったのです。
ではこのときに何があればその市場性をより的確に把握することができていたのでしょうか。振り返ってみると、ヒアリングやアンケートなどの一般的な市場調査の枠内では難しかったといわざるを得ません。
今回のようなまだ世の中に存在しないサービスの可能性を検証するケースでは、具体例が実在した状態で、それに対するユーザ反応を観察しなければ、正確な市場性は把握できません。つまり、市場調査をするより前に、ユーザーがそのサービスを体感できるまでに具体化しておく必要があったのです。
ユーザがどんなサービスかピンとこない状態での市場調査は、意味のない検証になるケースが少なくありません。現在でも新たなビジネス可能性を探るべく、多額の予算をかけた市場調査が頻繁に行われていますが、その多くは無駄に終わっているといえます。
新たなビジネスの可能性を探る際には、市場調査にリソースを投下するより、まずスピード感をもってそのサービスをユーザが体感できるまで具体化することが重要です。
その反応を見ることで事業性を判断するのが最も効率的かつ、唯一の方法といえるのではないでしょうか。
10年以上も前の事例ですが、市場調査は正しい方法でやらなければ、全く意味をなさないということを教えてくれる貴重な事例のひとつです。