急転落のアプリ会社
マイナス1億円という大赤字を出してしまったアプリ制作会社の痛恨の失敗、最終回!
2016.11.13
そんな苦しい状況下でも、この企業には復活へ向けて大きな武器があった。それは、はじめの3~4年でカジュアルゲームをベースにしたビジネスモデルをしっかりと確立できていたことだ。収益の軸となるビジネスモデルがあれば、復活への光明が見えてくるケースは少なくない。
「どんなに状況は最悪でも、いいゲームが出せれば、またきっと売上がつくれる、という妙な自信はありました。そこに戻れば大丈夫だ、カジュアルゲームは私たちのコア事業だ、という方向性は一致していたので、議論が荒れてもしっかりとそこに立ち戻ることができたのは大きいと思います。それができなかったら、よし次はお弁当でも売ってみようか、と滅茶苦茶なギャンブルに走ってしまった可能性もあったと思うんです。今振り返ると、そこがキーポイントだった気がします」
S氏は、自分たちにこれだと思えるビジネスがあるのなら、そこに集中して一点突破で行くべきだと語る。得意なことに集中することで、より大きな強みのある会社にしていくという考えだ。
「もちろん、振り返って言うのは簡単です。ですが、私たちはそこがブレて、失敗してしまいました。現在はカジュアルゲーム事業という自分たちの強みを軸に、もう一度立て直そうと、がむしゃらに仕事をしています」
初心に返ってからは、50万ダウンロード、売上4000万円のヒットアプリが生まれた。それに続き、15万ダウンロード、売上1500万円規模のアプリが続々生まれ、カジュアルゲームに関しては当たると思ったゲームは、確実に黒字化することに成功。V字回復を果たしている。
またS氏は売上を上げるにはゲームの面白さだけでは、結果はついてこないという。
「重要なのはマネタイズのお作法ですね。どの会社さんもゲームをつくるのは、ヘタクソじゃないんです。面白いゲームをつくれる人は世の中にたくさんいらっしゃいます。しかし、その面白いゲームを継続して遊んでもらいつつ、上手にマネタイズできているゲームは本当に少ないと感じています」
ゲームも面白いうえに、グラフィックも美しい、ユーザー評価も★5と高いが、ぜんぜん儲からないというゲームも多い。どんなにゲームが面白かったとしても、継続的プレイやマネタイズの仕組みがないと、売上として返ってこない。そうなると経営が厳しくなり、プロモーションすらできなくなってしまう。
考えてみると、事業の軸をブラさずに発展させていくことも、きちんとマネタイズの仕組みを作ることも、言われてみてば当たり前のことのように聞こえる。
「実際の現場では、その時々の狙いや仮説があると思います。その狙いや仮説は、その場ではしっかりと合理的な理由がつけられているはずだし、誰もが失敗をしようと思っているわけではない。ですが、その狙いや理論が、一人よがりになっている可能性はあると思うんです」
今回のケースはそれをしっかりと見つめ直し、復活を果たした好例。デジタル事業以外にも通ずる非常に学ぶべき点が多い事例だ。